はじめに
ドローンが墜落した。
機体は回収した。
それでも、現場で話が止まることがあります。
たとえば、次のような止まり方です。
再撮影が必要になった。
工程への影響が読めない。
発注者へ何を説明するかが固まらない。
追加費用をどこまで誰が持つのかが曖昧である。
こうした止まり方です。
このとき、原因は操縦ミスだけとは限りません。
止まりやすいのは、たとえば次の場面です。
外注先は「飛行中の事故」と見ている。
現場側は「作業が止まった問題」と見ている。
元請は「説明と調整の問題」として受けている。
同じ墜落でも、見ている論点が違えば、話はずれます。
しかも厄介なのは、その場ではいったん回ってしまうことです。
機体を回収した。
人身被害もなかった。
では、もう終わりかというと、そうではありません。
止まるのはむしろその後です。
再撮影、工程調整、検収、発注者説明の場面で、話が食い違いやすくなります。
むしろ多いのは、墜落そのものより前に、
この飛行を何の業務として見ていたのか
が整理されていないことです。
ここで扱うのは、次の三者がいる場面です。
元請が全体管理を担っている。
下請や協力会社が実際の飛行計画を担っている。
外注先が撮影や点検を受けて飛行させている。
この三者で、墜落をどう見るかが一致していないと、事故後に話がずれやすくなります。
この記事では、元請・下請・外注先の三者がいる場面を前提に、
ドローン墜落がどこで話のずれを生み、最後に誰へ重く返りやすいのかを整理します。
なぜこの論点が曖昧になりやすいのか
建設実務では、ドローンの飛行そのものは珍しくありません。
施工記録を残したい。
高所の状況を確認したい。
進捗や変状を共有したい。
そうした理由で、現場にドローンが入ることは自然にあります。
ただ、建設現場は工程優先で動きます。
飛行だけが独立しているわけではありません。
この日に撮る予定だった。
この工程で使う予定だった。
この説明に乗せる予定だった。
そうした前提の上に飛行が載っています。
そのため、墜落が起きたときも、単なる飛行の事故としては終わりません。
現場では、再撮影、再手配、工程調整、説明対応へ波及しやすいです。
しかも、現場では
「飛行は専門会社に任せている」
「何かあれば、その場で連絡する」
「必要なら撮り直せばよい」
という感覚で進みやすいことがあります。
この程度の整理でも、平時は回るかもしれません。
しかし、事故が起きたとき、あるいは後で説明が必要になったとき、
その曖昧さが一気に出ます。
問題は、墜落したことだけではありません。
その飛行を、誰が、何の業務として見ていたかが揃っていないことです。
墜落は、それだけで一つの問題ではない
ここで最初に押さえたいのは、
墜落したことと、何が問題になるかは同じではない
という点です。
機体が落ちた。
それは事実です。
ただ、その後に問題になるのは、一つではありません。
操縦や運航の問題として見ることがあります。
第三者損害の問題として扱うことがあります。
成果物が取れなかった問題として返ることがあります。
工程が止まった問題として受け止められることもあります。
つまり、墜落は一つでも、そこに重なる論点は複数あります。
ここを分けて考えないと、
外注先は飛行の話をしているのに、元請は工程の話をしている、
という状態になりやすいです。
実務で本当に痛いのは、ここです。
事故そのものより、その後にどの問題として扱うかが揃っていないことです。
工事瑕疵か、飛行事故かは見ている場面で変わる
この場面で話がずれやすいのは、
墜落そのものより、その飛行を何の業務として見ていたかが揃っていないからです。
単に飛行中のトラブルとして見ている立場もあります。
一方で、現場記録、報告、確認の一部として見ている立場もあります。
その違いがあるまま事故が起きると、飛行の話をしているつもりでも、相手は工程や説明の話をしています。
たとえば、その飛行が現場記録のための補助であれば、
飛行中の事故として整理しやすいかもしれません。
一方で、その空撮が工程上必要な確認や報告の一部として組み込まれていたなら、
墜落は現場全体の進み方に影響する問題になります。
さらに、成果物を使って判断や説明まで進める予定だったなら、
その墜落は成果物不備や検収の問題としても返ってきます。
つまり、同じ墜落でも、
単なる飛行のトラブルなのか。
工事の履行に影響する話なのか。
成果物の不足として見る話なのか。
その見方は、使う場面で変わります。
ここが曖昧なままだと、
現場側は「この飛行で確認や説明まで進む」と見ているのに、
受託側は「飛行業務を実施した」と見ていることがあります。
平時はそのまま流れることがあります。
ですが、墜落、再撮影、検収、説明の場面では、そのずれがそのまま表に出ます。
第三者損害、成果物不足、工程影響は同じではない
墜落後に崩れやすいのは、技術論より前のところです。
つまり、事故の中身の分け方です。
たとえば、第三者物件を壊した。
これは対物対応が必要になる話です。
一方で、物は壊していないが、必要なデータが取れていない。
これは成果物の問題です。
さらに、再撮影が必要になり、立会いも組み直しになった。
これは工程と段取りの問題です。
これらは全部、同じではありません。
ところが、墜落のあとでまとめて
「事故が起きた」
だけで話すと、どの問題の話をしているのかが曖昧になります。
その結果、
外注先は「保険や機体事故の対応」を考えている。
現場側は「再撮影と進行の立て直し」を考えている。
元請は「発注者へ何を説明するか」を考えている。
この状態になりやすいです。
話がずれるのは、誰か一人の理解不足だけではありません。
墜落の中に複数の問題が入っているのに、それを分けずに扱っているからです。
しかも、ここでいう「事故」には、現場説明や工程影響とは別に、
事故として何を報告し、何を記録として残すのかという論点もあります。
初動と記録の整理が必要な場面は、
「もしも」の時に慌てないためにーー建設業者が整理しておきたいドローン事故の「報告義務」でも整理しています。
実際に崩れやすいのはどこか
では、実際にはどこで食い違いが表に出やすいのでしょうか。
この論点で崩れやすいのは、法律の条文より前のところです。
つまり、事故後に何を誰が受けるのかという整理です。
外注先は「飛行の事故」として見やすい
外注先や実際の操縦側は、どうしても飛行実施の側から事故を見やすいです。
その日の風。
離着陸地点。
障害物。
操縦判断。
機体の挙動。
もちろん、これは大事です。
事故の実態を押さえるには欠かせません。
ただ、ここだけで整理すると、現場側や元請が受ける問題とは少しずれることがあります。
外注先としては
「飛行中の事故だった」
「その場で必要な対応をした」
という説明でも、
元請側から見ると
「なぜその日の現場全体が止まったのか」
「なぜこの成果が取れなかったのか」
が残ります。
つまり、外注先の説明が間違っているのではありません。
説明の範囲が、そのままでは足りないことがあるのです。
現場側は「再撮影と工程の問題」として受ける
現場側が痛むのは、ここです。
その日のうちに終わるはずだった。
確認に使う予定だった。
関係者も動いていた。
それが、墜落で崩れる。
こうなると、事故は単なる飛行中のトラブルではなく、
現場をどう立て直すかの問題になります。
たとえば、
再飛行の日程を組み直す。
立会いを再調整する。
工程を少し動かす。
必要なら関係者へ説明を入れる。
こうした手当てが必要になります。
しかも、現場では単に日程がずれるだけでは済まないことがあります。
立会いの再手配、周辺調整のやり直し、他工程との当たり直しまで必要になると、
墜落は一回の飛行事故ではなく、段取り全体を崩す出来事として受け止められます。
このとき、現場側から見えているのは、機体事故そのものより、
再撮影と工程の話です。
だから、外注先が飛行の話だけをしていると、そこで会話がずれやすくなります。
元請は「説明と調整の問題」として返ってくる
最後に重く返りやすいのは、元請です。
元請は、必ずしも操縦をしていません。
直接の外注発注者でもないことがあります。
それでも、現場全体の管理を担う以上、
墜落後に表面化したずれを引き受けやすい立場です。
発注者へどう説明するか。
この事故を現場全体としてどう位置づけるか。
再発防止をどう考えるか。
工程への影響をどう見るか。
こうした整理は、元請に集まりやすいです。
ここで困るのは、理屈上誰が悪いかだけではありません。
説明、再調整、工程影響まで含めた調整コストを誰が持つかです。
その意味で、墜落後に最後まで現場を動かし続ける側ほど、
話のずれの重さを引き受けやすくなります。
最後に重く返りやすいのはどこか
この論点では、誰か一人だけが困るわけではありません。
外注先には、飛行実施側としての説明が返ります。
現場側には、再撮影や再調整の負担が返ります。
元請には、現場全体としての説明と調整が返りやすいです。
つまり、墜落の重さは一か所にだけ集まるのではなく、
立場ごとに別の形で返るということです。
ただ、建設実務で後まで残りやすいのは、
墜落そのものより、説明、再調整、工程、検収、発注者対応の部分です。
そのため、この論点は飛行事故の話であると同時に、現場管理と説明設計の話でもあります。
先に切っておきたい最低限の線
では、この三者案件では何を先に切っておくべきなのでしょうか。
大切なのは、保険の有無だけではありません。
墜落時の抽象的な責任分担表でもありません。
まず必要なのは、
この飛行を何の業務として扱っているのか
を切ることです。
記録用なのか。
確認用なのか。
説明資料用なのか。
判断材料まで期待しているのか。
ここが決まらないと、墜落後に何が失われたのかも決まりません。
次に必要なのは、
事故後に誰がどの問題を受けるのか
を切ることです。
飛行事故としての初動は誰が持つのか。
現場再調整は誰が持つのか。
発注者説明は誰が持つのか。
再撮影の要否判断は誰が持つのか。
こうした整理は、責任追及の前に、
現場で何を誰が判断するのかを先に切る作業でもあります。
判断の持ち方そのものを整理した論点は、
事故を防ぐ建設業ドローン安全管理──高知現場で問われる「判断構造」の設計でも扱っています。
ここが曖昧だと、後で
「そこまでを想定していなかった」
が起きやすくなります。
さらに、成果物と工程の線も切る必要があります。
その飛行で何が取れれば足りるのか。
取れなかった場合、再撮影は当初業務に含むのか。
どの時点で工程影響として扱うのか。
検収や報告は何をもって進めるのか。
ここがないと、少しの事故でも全部が感覚論になります。
先に切るべきなのは、墜落後の責任追及表ではありません。
墜落前に、何が失われると現場が止まるのかを三者で揃えておくことです。
まとめ
ドローンが墜落した。
それだけでは、まだ問題は整理できません。
実務で本当に痛いのは、
その墜落を何の問題として見るかが揃っていないことです。
外注先は飛行の事故として見ている。
現場側は再撮影と工程の問題として受けている。
元請は説明と調整の問題として返ってくる。
このずれが、事故後に表面化します。
建設実務で重いのは、墜落そのものより、
その後の説明、再調整、工程、検収にまで話が広がることです。
だからこそ、ドローンの墜落は、
飛行の問題だけでなく、現場管理の問題としても見ておく必要があります。
外注したこと自体が問題なのではありません。
問題になるのは、三者の間で
この飛行を何の業務として見ていたのか
が少しずつ違うまま進むことです。
そのずれは、その場では小さく見えても、
事故、再撮影、検収、説明のたびに大きくなります。
だからこそ、墜落後に誰が悪いかを争う前に、
何のための飛行なのか。
何が取れなければ困るのか。
誰がどの説明を持つのか。
どこから工程問題になるのか。
そこを先に切る必要があります。
この論点は、事故対応の話というより、
現場を止めないための管理の基本です。
墜落後の責任や説明範囲を、相談前に整理しておきたい場合
ドローンが墜落したとき、問題は飛行事故だけで終わるとは限りません。
再撮影、成果物不足、工程影響、発注者説明が重なると、
元請・下請・外注先で見ている論点がずれやすくなります。
大切なのは、誰が悪いかを急いで決めることではなく、
その飛行を何の業務として扱い、事故後に誰がどの説明を持つのかを分けておくことです。
自社の状況について、相談前にどこまで整理すればよいか確認したい方は、
下記ページをご覧ください。
▶ 相談の流れ・Q&Aを見る
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